報告

“適疎”の町村づくりを発信する
─第27回小さくても輝く自治体フォーラム㏌一宮町
(2023年5月12・13日)

2023年7月15日

今年のフォーラムは、第1回目のフォーラムから20年目にあたり、「躍動する緑と海と太陽のまち・一宮町」(千葉県)で開催されました。北海道から宮城県まで22町村が参加し、1日目は記念講演に4分科会、そして夜の交流会。2日目はシンポジウム「適疎の町村づくりを展望する」と題して、大いに学び合いました。

第27回「小さくても輝く自治体フォーラム」が、5月12・13日の両日、太平洋を望む千葉県一宮町で開催されました。参加は、北は北海道西興部村から南は宮崎県木城町まで22町村、81人でした。

今回は昨年の高知県大川村に引き続いて、「〝適疎〟の町村づくりを発信する!」をスローガンに掲げ、かつて一宮町の自立(律)の転機となった合併シンポジウムで講演された元福島県矢祭町長の根本良一氏と自治体問題研究所前理事長の岡田知弘先生(京都橘大学)を記念講演講師に迎えました。

根本氏は「平成の市町村合併」を振り返り、「矢祭町は『合併しない宣言』を発したが、合併については是々非々だと考えている。それぞれの自治体で慎重に議論して決めるべきだ」と発言、続く岡田先生は、「『平成の大合併』が失敗だったことはリード役を務めた西尾勝氏も認めている」として、全国の市町村が自立(律)を決める大きなきっかけをつくった「フォーラム」の役割を高く評価し、「大きくても輝かない自治体と違い、地域のもつ自然資源を活用して地域内経済循環を実現できる小規模自治体の優位性が目立ってきた」と締めくくりました。

(フォーラム事務局:竹下登志成)

●第1分科会「観光と関係人口創出」

一宮町が東京オリンピックのサーフィン会場となったことなどから、今回初めて開設した「観光」テーマの分科会の助言者、大浦由美先生(和歌山大学観光学部)は、「2016年に登場した『関係人口』づくりは、戦略と住民の積極性があれば、地域が変わる質的転換につながる。観光の発展には専門家が必要で、地域に興味をもってくれる人をつかまえ、住んでいる人も幸せになる関係をつくりたい」と問題提起しました。

一宮町で観光事業を営む宇佐美信幸氏は、「宿泊客が来町観光客全体の3・4%と町への経済効果にはつながっていない。観光を、地域の農業や地場産業とマッチングさせていくことが重要」と報告しました。

北海道ニセコ町商工観光課の川埜満寿夫氏は、「町内在住者の10人に1人が外国人、役場では国際交流員5人が活躍し、『地域おこし協力隊員』も常時20~30人受け入れている。ニセコ町は〝ヨソモノ〟が活躍する町」と語り、町が〝ニセコローカルルール〟をつくってきた経緯などを語りました。

●第2分科会「地方高校の魅力を考える」

一宮町内に県立高校が存在し、活発な地域連携の実践があることから、初めて「地方高校の魅力を考える」分科会を設定しました。地方高校の魅力を考察し、地域社会の教育機能をどのように保証するかという問題について考えるものです。

最初に助言者の田開寛太郎先生(松本大学講師)から、長野県で先生が関わってきた飯田OIDE長姫高等学校の「地域協創スペシャリスト」育成プログラムの取り組み、高大連携(高校生と大学生の共学)によるフィールドスタディなどの豊かな事例を踏まえて、地方高校の魅力を創造する上での課題と可能性について問題提起を受けました。

次に実践報告として、田中善洋先生(千葉県立一宮商業高等学校)から「地域とともに~地域連携が生む可能性~」として地域と連携した豊かな教育実践の報告がありました。佐川正一郎福島県矢祭町長からは「高校統廃合の現状と町の子育て支援策」として「子育てサポート日本一」をめざした子育て支援の取り組み、そして、横前明長野県泰阜村長からは山村留学「だいだらぼっち」・短期滞在型の「山賊キャンプ」・ホースセラピー・県立高校を周辺自治体で支える取り組みなど多彩で豊かな報告が行われました。

(フォーラム事務局:吉川貴夫)

●第3分科会「里山の環境保全とまちづくり」

里山保全は、環境問題にとどまらない山村と地域(基礎自治体)の存続問題でもあります。こうした取り組みが生物多様性の保全を中心に提唱されてきたため、自治体を含む農山村地域の存続問題として十分に議論・評価されたとは言えません。

分科会では、「一宮町の自然と文化を次世代に伝える」(吉田正人/筑波大学教授)と「北海道黒松内町・北限のブナを活かしたまちづくり」(鎌田満/黒松内町長)が報告されました。

一宮町は、2020年に「一宮町森里川海共生ネットワーク」をつくり、各団体間の連携を計りながら住民に支えられた保全活動と次世代育成を進め、北海道黒松内町は、35年間にわたる「ブナ北限の里づくり構想」の取り組みをもとに、朱太川の在来鮎の保護など生物多様性を軸とする新たなまちづくりを始めています。

参加者による各地の取り組みの情報共有と議論の中から、①里山の管理問題、②河川と水害リスクの問題、③獣害対策、④新住民・移住者との関係づくり、⑤高齢化する地域におけるモビリティ問題、⑥気候変動(温暖化)への対応、などの課題があることが確認されました。

(助言者:朝岡幸彦)

●「町村長交流会」

町村長交流会は、フォーラムの会の会長の小坂泰久酒々井町長や馬淵昌也一宮町長はじめ12名の町村長と記念講演講師の岡田教授の参加のもと、活発な意見交換が行われました。

最初に司会進行の水谷(下関市立大学教授)が、講演で学んだ内容にふれながら、今回のフォーラムが、2003年2月に雪の長野県栄村に集まった第1回開催から20年目の記念すべき会で、会員町村の「小さいからこそ輝く」自治の取り組みそのものが憲法で保障された地方自治の実践と蓄積であり、日本の「自治思想の進化」を体現していることを確認しました。

そして、各町村長が、最近の自治の取り組みにおける問題や政策について順番に述べ、意見交換がなされました。消防団員数が減少していることと団員同士の交流会の機会が少ない問題や、先の統一地方選挙で議員候補が定数と同じで無投票であったことに対するマスコミの批判は一面的ではないか、「行政へお任せ」など住民の自治への関心をどう高めるか、職員数が少ない中でその育成や研修機会の確保をどう工夫しているのか、などがあげられて、議論もなされました。

(助言者:水谷利亮)

夜の交流会

●シンポジウム「〝適疎〟の町村づくりを展望する」

2日目はシンポジウムを開催し、コーディネーターに長澤成次先生(千葉大学名誉教授)、シンポジストは馬淵一宮町長と地元市民企業の代表、富澤恭子氏、千葉県多古町の平山富子町長、群馬県上野村の黒澤八郎村長を迎えました。

長澤先生は専門の社会教育の立場から、「住民の学びが自治の力をつくるという意味で〝小さくても輝く自治体〟に期待する」と問題提起し、馬淵町長は、「一定程度人口は減ることを前提に、行政と住民がそれぞれの自覚を高める営みが必要」と発言。富澤氏は、「転入者が半数を占める一宮町で、子育てを利益の出る企業活動として目指してきた。小さなチャレンジを歓迎してほしい」とまとめ、平山町長は、「元校長が町長に推されて1年3カ月、まだ実績とまでは言えないが、若手世代との意見交換や、『道の駅』のレストランの質を上げて〝もうかる視点〟づくりに努力してきた」と発言しました。

黒澤村長は、「4分の1が移住者の村で〝上野村一家〟づくりを目指し、高齢者集合住宅の建設、子育て応援に力を入れ、林業を盛んにして灯油代を村に戻し、簡単な工事は地元でこなす〝地産地活〟を進めてきた」と小規模自治体の優位性を強調しました。

「フォーラム」は最後に、上の参加者アピールと次回、宮崎県木城町での開催を確認し閉会しました。