新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が季節性インフルエンザ相当の5類感染症に位置づけられて、社会生活において日常を取り戻しつつありますが、コロナ禍で加速した人口減少が日本社会の持続可能性に重大な影響をもたらしています。2022年の日本の出生数は統計上はじめて80万人を割りました。そのなかで東京都への転入超過数も再び増加して、東京一極集中の流れが再び進んでいます。背景には、デジタル化の急速な進展と富や所得の東京への一層の集中が影響していると考えられます。
地方のまちや地域に若者が関心をもち移住を考える田園回帰の流れを確かなものとしていくには、「選択と集中」という考え方にもとづく政府の政策のあり方を見直すとともに、地域資源を活かした地域内経済循環や循環型経済を構築して、将来世代にわたって暮らしやすく、そして人が育ち育てられる地域をつくろうとしている自治体の取り組みを強化することが求められます。
令和5年(2023年)の初夏、“躍動する緑と海と太陽のまち”を目指してまちづくりを進めている一宮町において集った私たちは、昨年度の高知県大川村でのフォーラムにおける学びを受けて「適疎(てきそ)」という考え方とあり方を大切にして、地域の未来を自治の力で切り拓く小規模町村の取り組みを交流し合いました。
「適疎」とは、過疎でも過密でもなく、ほどよく疎な状態にある地域で、地域の環境や資源を維持管理しながら活用し、豊かな暮らしとサステナブルな地域を実現できるあり方です。そこでは、地域の住民が自分たちで暮らしをつくっていくまちづくり活動や行政の政策づくりへの参加が組み込まれていることも大切です。
また、「選択と集中」という考え方に基づいた効率性や数値目標の達成ではなく、そこで暮らす一人ひとりの人生の質が向上して「幸福度」をいかに高めるかが自治の目的として大切にされる必要があることを確認しました。他方で里山の保全と活用をめぐる問題も喫緊の課題となっており、山林の管理が河川や海の生態系に大きな影響を与えているとともに、小規模自治体の存続の鍵を握っていることも確認されました。
今回のフォーラムは、平成15年(2003年)2月に雪深い長野県栄村で第1回の小規模町村のフォーラムが開催されてから、20年の節目になります。現在は、まさに時代の転換期にありますが、小さくても輝く自治体の「小さいからこそ輝く」自治の取り組みと自治思想は、これからの日本の地域社会の維持に必要なものです。
今後も小規模自治体は、幸せに暮らせる地域を自治の力でつくりながら田園回帰の流れを確かなものとしていく取り組みを進めていきます。
令和5年(2023年)5月13日